【労働衛生】健康障害・健康影響・疾病等

化学物質による健康障害

出題傾向として、「特定の健康障害⇒該当する化学物質を選択」は出なくなり、「化学物質+健康障害の正誤」で出題が続いています。したがって、化学物質と健康障害のセットを数多く暗記が必要になりました。

5択問題ですから、知っている選択肢が4つ出たら確実に正解でき、3つ出たら最低でも2択(3つの中に正解がない場合)にできるので、出現頻度の高い順に覚えましょう。

なお、一部は有機溶剤の設問でも出てきます。

◎=よく出る、〇=出やすい、△=たまに出る

化学物質 健康障害 誤りパターン
弗化水素(慢性中毒) 骨の硬化、斑状歯 幻覚、錯乱などの精神障害(出やすい)
貧血、溶血、メトヘモグロビン形成によるチアノーゼ
シアン化水素 呼吸困難、けいれん
ノルマルヘキサン 多発性神経炎、末梢神経障害、頭痛、めまい
硫化水素 意識消失、呼吸麻痺
一酸化炭素 酸素欠乏状態(息切れ、頭痛、虚脱、意識混濁) 貧血、溶血(出やすい)
ここまで覚えると過去問の約2割を正解でき、4割以上を最低でも2択にできる
酢酸メチル 視力低下、視野狭窄 微細動脈瘤を伴う脳卒中
再生不良性貧血、白血病
ベンゼン 造血器障害(再生不良性貧血、白血病)
二酸化硫黄(慢性中毒) 慢性気管支炎、歯牙酸蝕症
二酸化窒素 慢性気管支炎、肺気腫 末梢神経障害
骨の硬化や斑状歯
塩素 目、鼻、口の灼熱感や悪心、呼吸器障害、嘔吐、頭痛 再生不良性貧血、溶血(出やすい)
N,N-ジメチルホルムアミド 頭痛、めまい、肝機能障害
(推奨)ここまで覚えると過去問の約8割を正解でき、約1割を最低でも2択にできる
二硫化炭素 精神障害、意識障害、動脈硬化の進行 再生不良性貧血、溶血
塩化ビニル 指の骨の溶解、肝臓の血管肉腫 慢性気管支炎、歯牙酸蝕症
トリクロロエチレン(トリクロルエチレン) 肝障害
メタノール 視神経障害、中枢神経系障害 造血器障害、脳血管障害

有害物質とがん(悪性腫瘍)

がん(悪性腫瘍)だけの出題は少なく、令和5年後期はしばらくぶりに出題されました。総数が少ないので、明確な傾向は見えません。

過去に出題された、有害物質と症状の組み合わせ(がんではない症状を含みます)を掲載しておきます。全体的には、肺がんを引き起こす有害物質の出題が多いように感じます。

有害物質 症状 誤りパターン
石綿 肺がん、中皮腫 胃がん皮膚がん
クロム酸 肺がん、上気道がん 大腸がん皮膚がん
ベンゼン 白血病 膀胱がん
コールタール 肺がん、皮膚がん 肝血管肉腫白血病
ベンジジン 膀胱がん 胃がん皮膚がん
塩化ビニル 肝血管肉腫
三酸化砒素 肺がん、皮膚がん
金属水銀 感情不安定、精神障害、指先の震えなど 肝がん
ビス(クロロメチル)エーテル 肺がん 膀胱がん
ベータ-ナフチルアミン 膀胱がん 肺がん
ベンゾトリクロリド 肺がん 膀胱がん

電離放射線の性質と被ばくの影響

電離放射線のみの出題はそれほど多くないのですが、電離放射線は有害要因や有害光線等として他の設問でも出てくるので、トータルで考えると重要な知識です。

出題形式が「誤り」を答える設問しかなく(令和5年後期まで)、正答の誤り選択肢よりも、誤答になる残り4つの正しい選択肢を覚えないと知識として身に付きません

以下、重要キーワードの整理です。

粒子線と電磁波

粒子線:アルファ線、ベータ線、中性子線など
電磁波:エックス線、ガンマ線

影響を受けやすい細胞

造血器、生殖腺、腸粘膜、皮膚など細胞分裂の頻度が高い組織・臓器

確定的影響と確率的影響
確定的影響 被ばく線量がしきい値を超えると発生率及び重症度が線量に対応して増加する。しきい値を超えないと症状は現れない。
確率的影響 発生する確率が被ばく線量の増加に応じて増加する。しきい値はないと仮定される。
身体的影響と遺伝的影響

※過去問では身体的影響と遺伝的影響があるとしか出題されていません。

身体的影響 被ばくした本人の身体に現れる影響(確定的影響・確率的影響)
遺伝的影響 子孫の身体に現れる影響(確率的影響)
急性(早期)障害と晩発障害
急性障害 数週間以内に症状が出る。吐き気、頭痛、意識障害、脱毛、不妊、造血器障害(よく出る)、皮膚障害、中枢神経系障害(よく出る)など
晩発障害 数か月から数年以上経過後に症状が出る。白内障(よく出る)、緑内障、白血病(よく出る)、がん(よく出る)

ややこしいのは、確定的影響と確率的影響、身体的影響と遺伝的影響、急性障害と晩発障害の分類が、次のように重なっていることです。出やすい健康障害を加えてありますので、がんばってしっかり覚えましょう。

機序の違い 対象の違い 発症時期 健康障害
確定的影響 身体的影響 急性障害 造血器障害、中枢神経系障害など
晩発障害 白内障など
確率的影響 白血病、がん
遺伝的影響 (遺伝性疾患)

有機溶剤の性質と健康障害

①有機溶剤の性質、②有機溶剤による健康障害総論、③個別の有機溶剤による健康障害に加え、生物学的モニタリング指標の選択肢が混じることもありますが、生物学的モニタリング指標は別の設問になるケースがあって、この設問ではあまり出題されません。

◎=よく出る、〇=出やすい、△=たまに出る

①有機溶剤の性質

かなりパターン化しています。

  • 揮発性があり、蒸気は空気より重い誤:軽い
  • 脂溶性があり、脂肪の多い脳などに入りやすい誤:入りにくい
  • 呼吸器から吸収されやすいが、皮膚から吸収されるものもある誤:皮膚から吸収されない
②有機溶剤による健康障害総論
  • 皮膚又は粘膜の症状 ⇒ 皮膚の角化、結膜炎など(誤:黒皮症、鼻中隔穿孔など
  • 低濃度の繰り返しばく露 ⇒ 頭痛、めまい、物忘れ、不眠などの不定愁訴
  • 肝機能障害や腎機能障害を起こすものがある
  • 中毒の典型的な症状 ⇒ 中枢神経系の麻酔作用によるめまい、失神など
  • 高濃度ばく露による急性中毒 ⇒ 酩酊状態、重篤な場合は死に至る
  • 呼吸器の中毒症状 ⇒ 咳、上気道の炎症など
③個別の有機溶剤による健康障害

意外と種類は少ないですが、当然ながら全く別の有機溶剤が出るかもしれません。

有機溶剤 健康障害
二硫化炭素 正:精神障害、意識障害、動脈硬化の進行
誤:再生不良性貧血などの造血器障害、チアノーゼ
メタノール 正:視神経障害、中枢神経系障害
誤:網膜の微細動脈瘤を伴う脳血管障害
ノルマルヘキサン 正:多発性神経炎
誤:白血病や皮膚がん
トルエン 正:中枢神経系障害、脳波異常、大脳の器質変化
誤:網膜細動脈瘤を伴う脳血管障害
酢酸メチル 正:視力低下、視野狭窄など
N,N-ジメチルホルムアミド 正:頭痛、めまい、肝機能障害
誤:視力低下を伴う視神経障害

メンタルヘルスケア

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を熟読するのは大事ですが、量が多いので出たことのある部分に集中すべきです。

指針2:メンタルヘルスケアの基本的考え方
一次予防・二次予防・三次予防 一次予防:メンタルヘルス不調を未然に防止する(誤:メンタルヘルス不調を早期に発見する
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う
これらが円滑に行われるようにする必要がある
予防の取組み セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の四つのケアを継続的かつ計画的に行うことが重要
誤:三つのケア、家族によるケア
留意事項
  • 心の健康については、客観的な測定方法が十分確立しておらず、また、心の健康問題の発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの把握が難しいという特性がある
  • 労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織などの要因によって影響を受けるため、メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多い
  • 労働者の心の健康は、職場のストレス要因のみならず、家庭・個人生活などの職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多い
指針3:衛生委員会等における調査審議
ストレスチェック制度との関連 ストレスチェック制度に関する調査審議とメンタルヘルスケアに関する調査審議を関連付けて行うことが望ましい
誤:プライバシー保護の観点から、ストレスチェック制度に関する調査審議とメンタルヘルスケアに関する調査審議を関連付けて行うことは避ける
指針4:心の健康づくり計画
策定 「心の健康づくり計画」の策定に当たっては、衛生委員会又は安全衛生委員会において十分調査審議を行う
誤:プライバシー保護の観点から、衛生委員会や安全衛生委員会での調査審議は避ける
位置付け 「心の健康づくり計画」は、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けることが望ましい
定めるべき事項 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨を表明することは、「心の健康づくり計画」で定めるべき事項に含まれる
指針5:4つのメンタルヘルスケアの推進
セルフケア 労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスの予防や対処を行う
ラインによるケア 管理監督者が、職場環境等の改善や労働者からの相談への対応を行う
誤:職場の同僚が早期発見、相談への対応を行うとともに管理監督者に情報提供を行う
事業場内産業保健スタッフ等によるケア 産業医、衛生管理者等が、心の健康づくり対策の提言や推進を行うとともに、労働者及び管理監督者に対する支援を行う
誤:メンタルヘルス不調の労働者を参加させる衛生委員会によるケア
事業場外資源によるケア メンタルヘルスケアに関する専門的な知識を有する事業場外の機関及び専門家を活用し支援を受ける
指針7:メンタルヘルスに関する個人情報の保護への配慮
個人情報の取得時 労働者の個人情報を主治医等の医療職や家族から取得する際には、あらかじめこれらの情報を取得する目的を労働者に明らかにして承諾を得るとともに、これらの情報は労働者本人から提出を受けることが望ましい
誤:速やかな対応が必要であるので、当該労働者の状況を主治医や家族から本人の同意を得ることなく取得する

脳血管障害及び虚血性心疾患

脳血管障害と虚血性心疾患だけなので、過去問を周回すれば正解できます。しかも出やすい。

脳血管障害

◎=よく出る、〇=出やすい、△=たまに出る

脳血管障害は、脳の血管の病変が原因で生じ、出血性病変、虚血性病変などに分類される
出血性の脳血管障害は、脳表面のくも膜下腔に出血するくも膜下出血、脳実質内に出血する脳出血などに分類される
虚血性の脳血管障害である脳梗塞は、脳血管自体の動脈硬化性病変による脳血栓症(誤:脳塞栓症)と、心臓や動脈壁の血栓が剥がれて脳血管を閉塞する脳塞栓症(誤:脳血栓症)に分類される
くも膜下出血の症状は、「頭が割れるような」、「ハンマーでたたかれたような」などと表現される急激で激しい頭痛が特徴である(誤:脳動脈瘤が破れて数日後に発症
脳梗塞や脳出血では、頭痛、吐き気、手足のしびれ、麻痺、言語障害、視覚障害などの症状が認められる(以前出ていた)
高血圧性脳症は、急激な血圧上昇が誘因となって、脳が腫脹する病気で、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、視力障害、けいれんなどの症状がみられる(令和4年後期初出題)
虚血性心疾患

◎=よく出る、〇=出やすい、△=たまに出る

虚血性心疾患は、冠動脈による(誤:門脈による)心筋への血液の供給が不足したり途絶えることにより起こる心筋障害である
虚血性心疾患は、心筋の一部分に可逆的な虚血が起こる狭心症(誤:心筋梗塞)と、不可逆的な心筋壊死が起こる心筋梗塞(誤:狭心症)とに大別される
虚血性心疾患発症の危険因子には、高血圧、喫煙、脂質異常症などがある
心筋梗塞では、突然激しい胸痛が起こり、「締め付けられるように痛い」、「胸が苦しい」などの症状が、1時間以上続くこともある
狭心症の痛みの場所は、心筋梗塞とほぼ同じであるが、その発作が続く時間は、通常数分程度で、長くても15分以内におさまることが多い
運動負荷心電図検査は、虚血性心疾患の発見に有用である(誤:心筋の異常や不整脈の発見には役立つが、虚血性心疾患の発見には有用でない
狭心症は、心臓の血管の一部の血流が一時的に悪くなる病気である

骨折の種類と救急処置

公表問題においては、令和に入ってから令和5年後期まで出題されなかった設問。古い過去問も軽視できないのがわかります。

骨折の種類
種類 状態
単純骨折 皮膚の下で骨が折れていて、皮膚に損傷が及んでいない
完全骨折 骨が完全に折れている(離れている)状態
不完全骨折 骨にひびの入った状態
複雑骨折(開放骨折) 折れた骨が皮膚から露出しているなど、皮膚に損傷がある
注:骨が粉々に砕けた状態をいうのではありません(よく出ます)
骨折時の救急処置

出題のほとんどは、副子(添え木のこと)を使った固定方法、脊髄損傷が疑われる場合の搬送方法です。

  • 副子:骨折部位の上下の関節を含めて固定できる長さと幅が必要。骨折部位が手足の場合は、副子の先端が手先・足先から出るくらいの長さ。
  • 脊髄損傷時の搬送:硬い板の上に乗せて固定。とにかく負傷者を動かさない(振動を与えない)。